家族が増える時の心構え
家族になるということは、一つの命に責任を持つということです。
可哀相だから、と中途半端な気持ちで縁を繋ぐと、きっと自分も相手も苦しむことになる。
猫が好きだからこそ、引き取る時には、猫と自分の人生をしっかり見つめ合わせて考えないといけない。
私がそういう風に考える様になったのは、たま先生との出会いがきっかけでした。
たま先生との出会いは、じめじめと雨が続く梅雨時期でした。
溜まった洗濯物を乾燥するために、普段は立ち寄ることのないコインランドリーへ行きました。
家からほんの少し遠いこともあり、乾燥機が終わるまで時間を潰そうと、コインランドリー内で待機していたのですが、乾燥機の熱気もあってか、喉が渇いたので、近くの自販機でコーヒーを購入しました。
ちょうど雨も上がっていたこともあり、自販機の横のブロックに腰掛けて、ちびちびとコーヒーを飲んでいました。
すると、地面に置いたはずのコーヒーの缶が、不自然に音を音を立てていました。
コツコツ!
視線を地面に向けると、生後二か月程の、三毛猫が私を見上げていました。
周囲に母猫や兄弟の姿はなく、一匹だけでした。
子猫は地面に置いた缶に興味津々な様子でしたが、猫にカフェインは良くないと思い、缶を猫から遠ざけました。
その時一緒に居たのが、今の主人です。
子猫は主人が気に入ったのか、足元に絡みついて離れませんでした。
駐車場には、私達の他に二台の車が停車していました。
もしかしたら、どちらかの車の持ち主が、この三毛猫の飼い主かも知れないと思い、コインランドリー内で飼い主らしき人がいないか確認してみました。
けれど、それらしき人は見当たりません。
このまま此処にいたら、事故に巻き込まれるかもしれないし、保護して獣医さんに連れて行こう、という話になり、連れ帰ろうとしていると、先ほどコインランドリーで声を掛けたおじいさんが走り寄ってきました。
ごめんなぁ。
その子、うちの畑にいた子かもしれん。
軽トラに乗って、ついてきてしもたんかも…。
おじいさんは、申し訳なさそうに頭を下げながら、子猫の行く末を訪ねてきました。
「飼い主がいないようなら、子猫を動物病院へ連れて行こうと思っています」と言うと、おじいさんは深々と頭を下げて、 「頼みます」と言い、どこか安心した表情で去っていきました。
私は、主人に子猫を病院へ連れて行くことを告げました。
子猫に見初められた主人は、すっかり上機嫌で、子猫を抱きながら車に乗り込みました。
中途半端な善意
その日は日曜日で、動物病院が閉まっていました。
緊急を要するわけでもなかったので、翌日に動物病院へ連れて行くこととし、その日は猫の餌とトイレ、キャリーケースを近くのホームセンターで購入して、早々に就寝しました。
入社して初めての有休は、猫を病院へ連れていくという理由でした。
翌日、動物病院を受診した、たま先生は、至って健康な三毛猫女子で、特にこれといった病気はありませんでした。
そして、この時担当してくれた獣医さんの言葉は、一生忘れることはないと思います。
この子、飼われるんですか?
もしその気がないなら、拾った所に戻して来てください。
中途半端に同情されても、可哀相なので 。
来院した当初から素っ気ない物言いの先生ではありましたが、動物に対しては、とても優しい方なので、尚更ずっしりと重さのある言葉に感じました。
同時に、自分たちの行動が、偽善的で責任感がないと言われているようで、悔しさと悲しさで、少し落ち込みました。
子猫を保護する時って、感情的に動いちゃいますよね、きっと誰しもそういう部分を持ち合わせていると思います。
だし、保護した後のことって、その時には中々考えられないですよね。
けど、その子を保護した段階で、その子の命の行き先が自分の今後の行動で決まるんだ、と考えるさせられる機会でもあった様に感じます。
病院から帰る道中、主人も、私も無言でした。
お互いに、獣医さんの言葉に、考えさせられるものがあったからだと思います。
そんなもやもやとした気持ちを抱えたまま、里親探しを始めました。
ひとまず、知り合いの人に連絡し、猫を飼ってくれる人がいないか探しました。
しかし、断りの電話が入る度に安堵している自分がいました。
何より、獣医さんの言葉が胸に引っかかって、行動と気持ちがちぐはぐになっている感覚でした。
そして、命について深く考えさせられたきっかけになった気がします。
結局、里親探しは諦めました。
そして、たま先生には、正式に我が家の家族になって頂きました。
命を預かる覚悟
猫と暮らすということは、命の責任を持つことです。
その覚悟がないまま、中途半端な優しさで、猫を飼うことはして欲しくないと思います。
猫を飼おうと思っている方、そして、すでに猫と暮らしている方は、どうかその覚悟を持った上で、猫ちゃんとの人生を謳歌してもらえたらなぁ、と思います。
我が家は、たま先生を迎えたことで、大きな変化が訪れました。
・たま先生のお世話をすることをきっかけに、主人と同棲することになった。
・動物を大事にする姿を見て、結婚を決意。
・たま先生が自由に過ごせる家を建てよう!と奮起し、結婚と同時にマイホームを建てた。
私の人生が大きく変化する時、たま先生はいつも傍に居てくれた、かけがえのない存在です。
たま先生との付き合いも10年を越え、すっかりおばあちゃんになりました。
歩くのも遅くなり、吐くことも多くなりましたが、気の強さは10年経っても変わりません。
まだまだ元気で長生きして欲しいと思います。
そして、たま先生の毎日が、幸せなものであるよう、世話係として尽力したいと思います。
長々とお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
よければ、また、たま先生に会いに来てくださいね。
心より、お待ちしております。
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